四コマ界の巨匠と言えば植田まさしその人である。
(もしや植田まさしを「コボちゃん」だけの人だと思ってはいないな?)
植田まさしの四コマ漫画についての詳細な説明は割愛するが、起承転結が四コマで終わっている、ということが基本的なルールだ。
「そんなの当たり前じゃないか」と思われる人。最近の四コマに目を向けて欲しい。もはや「コマが4つ」程度しか共通点がない漫画が多いのではなかろうか。特に四コマ誌に掲載しているストーリー漫画にその傾向にある。あるいは、普遍的な四コマ漫画でも終盤(特にシリアス味が増したとき)にそれはしばしば見られる。
別に何が正しいかについて議論したいワケではないが、一つ言いたいのは私はストーリー漫画を読むために四コマを読んではいないということだ。そんなら『くらジナル』じゃなくて『モーニング』を読む。『OL進化論』も載ってるし。
(ちなみに最近はOL感を感じなくなってきたが、全然OKだ)
前置きが長くなったが、じゃあお薦めの四コマは? と聞かれたときに自信をもって送り出せるのが『光の大社員』なのだ。
ザ・正統派
概要
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著者(私の主観と記憶に準拠)
OYSTER。『ケロロ軍曹』の吉崎観音のアシスタント。代表作に『男爵校長』や『超可動ガール1/6』等。でも私は『武者武者道中 ティラの介』が最も好みかもしれない。美しいから。
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あらすじ(これも私の主観と記憶に準拠)
おもちゃ会社勤務の主人公輝戸が、ニヒルなライバル伊達や寸胴のたまきさんなど「現実の会社には居てももしかしたら許されるかもしれないけれど絶対いないよね。居て欲しいけど」というキャラクターはさておき光り輝く大社員を目指す。
いつもの通り、気になる方はWiki(光の大社員 - Wikipedia)でも見といてください。
(最終巻表紙。「こういう」漫画なのだ) -
概要(巻数、掲載誌・時期)
全5巻。まんがタウンで2005~2013年頃連載。
感想
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出会い
四コマ漫画誌をむさぼるように立ち読みしていた中高生の頃(2000年代前半)。『まんがくらぶ』とか『まんがタウン』とか『MOMO』とか『きらら』とか『フォワード』とか『くらジナル』とかその他諸々(全部正式名称ではないし多分間違っているが、雑誌のタイトルはとてもではないけれど覚えられまい。「ばんがいち」くらいインパクトがあればまた別だが)。要は芳文社か双葉社か竹書房か、そのあたりの漫画一切合切である。この時代に区別が付いていた人間なんていないんじゃないか?
そんな中キラリと光る名作が。そう、それが光の大社員なのである。 -
何故素晴らしいか
ここまで長々と述べたが、正統派なのだ。まずそこがストロング・ポイントなのである。一例を紹介しよう。
第五巻から抜粋してきた。まずは一通り読んで、あらためて笑って欲しい。
……笑った? 爆笑……ではないとは思う。むしろこれで爆笑する人間なら、こんなブログなんか読んでいる場合ではない。貴方が爆笑できる漫画はまだ星の数ほどあるので、それを先に読むのだ。そして10年くらいたったら「xx 感想」とかでググってこのブログを再訪してくれれば嬉しい。
閑話休題。別に爆笑はしない。でも当然面白い。多分、日本国民の八割くらいは「クスっ」と来るはずだ。あるいは「ニヤっ」か。そのいずれかだ。あとの二割はギロッポンのクラブにでもいるのだろう。そんな奴らは知らん。
そして素晴らしい点を紐解いていこう。本来的にはギャグ漫画の解説ほど野暮なことはないのだが、そういう趣旨の記事なので。一応、ね。
まず! 事前情報がほぼ全く無くても楽しめる。これが第一にある。この「ほぼ」というのがミソであり、この「ほぼ」のラインが難しいのですよ。
笑いを取るときは一般に、なんらかの共通認識をベースにしていることが多い。「となりに家に囲いができったねー → へー、かっこいー」というギャグは読み手が日本語の話者であることが前提になっているし、「私はコレで会社をやめました」というCMは小指という暗喩を視聴者に要求することはもちろん、女が原因で(真面目そうな男が)会社を辞めるとギャグになるという共通認識も要求してくる。かなり高度なギャグであり、おそらく今ではギャグとして通用しない。だってみんなそういうの敏感じゃん? もっと言うと、某とんねるずの「ホモ」ネタなんかは共通認識の変化の代表選手だが、要らない議論を巻き起こすのでもちろん割愛だ。(若い人たちは「禁煙パイポ」で各自ググってください)
で、上記の四コマ二本に戻ろう。作者が我々に要求している前提知識はモノポリーの存在とおじさんの造形、及び人生ゲームのルールが主だ。もちろん背広を着た年配っぽい人は会社の社員であることが多い、という知識も必要だがそこまで言うと全くキリがないのでここでは話題にしない。
そうなのだ。彼が(モデルはあるにせよ)生み出したキャラクターに全く依存しないギャグだからこそ、このコマが四つで楽しめる。前提条件の網の目を華麗に掻い潜り、楽しさ指数を最大限に引き上げてくれている。それが素晴らしいのだ。(要はこのオッサンだけ知っておけば楽しめるって寸法)
伊達や輝戸が3コマ目、4コマ目で会話をしているが、そこに彼らのキャラクターは全く必要とされていない。彼らに要求されるのはヒラ社員という記号だけだ。我々が安易に踏み出しがちな「内輪ネタ」とは全く異なるというワケだ。
もちろん、内輪ネタが悪いわけではない。ただ、そういうギャグばかり連発されると胃がもたれるし、なによりそういうものは長持ちしない。学生の頃、双子を見る度に「どっちがどっちか分からんなHAHAHA」みたいなギャグを飛ばしていた先生が世界のどこにもいたはずであるが、まあ流石にクドい。
しかし光の大社員、内輪ネタでもただでは転ばない。そう、「内輪ネタ」がとにかく分かり易いのだ。
上記二本の四コマでは、「秘書のちはるさん」をイジるという内輪ネタになっている。これ自体は現実世界でも散見出来る。しかし、我々は何故か共感出来てしまうので、結果的に笑いの深度が大きくなるのだ。笑いの深度って何?
ざっくり言うと、「秘書のちはるさん」を「眼鏡をかけた敏腕秘書」という記号として読者に認識させることで、Very広範な読者を「内輪」化したのだ。一瞬で。これは並の腕で出来ることではない。そして内輪ネタは面白い。だからその沼に我々は引き込まれるのだ。
なお、一本目の四コマ目は「マジ」の内輪ネタだ。楽屋オチとも言うけれど。
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その他雑感
その他キャラクターの記号化が異様に上手いなど、彼の漫画はもう褒めれば褒めるほど褒めるポイントが出てくるのではあるが、本日はここまで。
まとめ
- ポスト植田まさし
- 万人への「内輪」ウケ
- まだまだ褒めれるOYSTER
こういう「万人ウケする内輪ネタ」というのが正統派の正統派たるゆえんじゃないでしょうか。少なくとも、『かりあげくん』はそんな話でしたよね。
関連する過去記事はこっち(↓)。そういう四コマ減ったよなあ。
じゃあのノシ
青海老