『モルダイバー』だ! どちらかと言うとOVAが有名なこの作品。しかし、漫画版も当時の流行を抑えていて、よきかなよきかなという仕上がりを見せている。
当時の流行とは、「美少女をメカ(ロボ)に載せてSF仕立てでアクションさせればいいんじゃない?」という、非常に分かり易いものである。もちろん、雰囲気はギャグが基本線で。これに忠実なのが『万能文化猫娘』である。
(アニメはOVA、テレビ版どちらも出色)
ちなみに、こういうののハシリは『トップをねらえ!』である。ま、ストーリーが若干シリアスではあるが。
ということで、気を抜かしてのんびりと読める名作、それが『モルダイバー』なのだ。
お手軽な「女の子×メカ」
概要
-
著者(私の主観と記憶に準拠)
伊藤伸平。『東京爆発娘』など。少年キャプテン全盛期を支えた一人(他には安永航一郎など)。星雲賞の候補になること複数回の、SF畑の実力者。
-
あらすじ(これも私の主観と記憶に準拠)
時は近未来2045年。1990年当時に描いた2045年のSF的未来(昭和120年の発想に近い)では日本はまだまだ技術競争の最先端。一介の研究者である大宇宙寛(おおぞらひろし)は妹の大空未来(同未来)独自開発のスーツを武器に、マッドなサイエンティストと日夜戦うのであった!
いつもの通り、気になる方はWiki(モルダイバー - Wikipedia)でも見といてください。
(新装版。私の手元にあるのは旧版。旧版の方が線は荒っぽいけど、勢いがあって好きなんだよな…) -
概要(巻数、掲載誌・時期)
全3巻。キャプテンで1993年前後連載。
感想
-
出会い
「往年のキャプテンコミックスに外れ無し」の金言を胸に私は漫画を漁る。そそして発見。「お、モルダイバーって漫画やってたのかよ」という訝しみからスタートして……最高じゃんか!
-
何故素晴らしいか
今でこそ珍しくない、どころかブームが一端落ち着いてまた再ブームが来てしまっている美少女ロボアクションものの今日この頃(2018年)。
最近の美少女アクションものも嫌いではないんですが、なにせ話が複雑なんですよ。私が美少女アクションに求めているのは、「頭が悪そうな女の子がノセられてメカアクションする」だけなので、シリアスな背景とかジェンダー論とかはいらんのですわ。
もちろん、これはフィクションに対するスタンスであって、現実世界でそうあるべきだとか、全ての作品がそうあるべきだ、とは決して言わない。でも、フィクションって現実にないことをやるべきだと思うし、そういうことを実現できるのがフィクションの良さなのではなかろうか。
現実、私の職場では女性も男性も関係なくとんでもないブラックな案件に放り込まれるし、最終的に生き残るのは女性の方が多い。不思議な職場だ(外資系である)。だから、女性が派手に立ち回って頭脳を武器に……というフォーマットをフィクションには求めていない。
しかも、そういう作品の金字塔として『プリキュア』というゴールデン・スタンダードがあるわけですしね。アレを越えるのは難しいのではなかろうか。他には『もやしもん』とか。アレには強い女しか出てこない。男は完全にわき役。(もう性別云々言う時代は終わった)
だからこそ、この『モルダイバー』なのだ。主人公の女の子は恋する乙女で、結構自己中心的で、でも努力家で……そうそう、そういう作品が読みたいんだよ俺は。1980年以前では、『巨人の星』の明子姉ちゃんが理想の女性だった。それが今では『プリキュア』だ。その間が私の好みなのよ。『フリクリ』とかも強引にカテゴライズすればそこに該当するかもしれない。(旧アニメは良かった。オルタナ、プログレは……)
なかなか『モルダイバー』の話に入れない。無理やり入ろう。
まず、ストーリーが軽薄で素晴らしい。大きなストーリーとしては、マッドサイエンティストが居て、それを正義だが(世間的には)矮小な存在がそれを止めねばならない。この構成、最高です。
なぜなら、マッドサイエンティストというのが「悪の為には正々堂々」の出門兇三郎よろしくの根性なんですよ。私はこのタイプの博士には目が無くてね。マッドサイエンティストの美学をちゃんと押さえているタイプの博士。こういう憎めない敵役が大好きなんですよ。ちゃんと設計通りにやられてくれる。読者の望む通りに話を(違和感なく)転げてくれる。技術が「悪の組織」に悪用されたりするともう最高なんですよ。
そういう「憎めない悪」を腕力だけで叩き壊す美少女ヒロイン。完全に脳筋。もっというと、『アッセンブルインサート』の南風まろん。(ゆうきまさみの『アッセンブルインサート』より)
あるいは、このフォーマットは上記紹介した『万猫』にも共通。ちょっとマイナーだとイリーナ・フォウリーもコレだ。いいよね、脳筋女。
(秋田みやび。TRPGの雄)
こういうキャラ×近未来SF。しかも最後には博士と手を組んで、真の悪を倒す。ストーリー的には120点。
しかもしかも、これが全3巻で終わっているところに500億点を追加したい。もしかすると、ここがミソなのかもしれない。我々に「もっと未来ちゃんの活躍を読ませろ!」という欲求不満が貯まるけど、一番ちょうどいい引き際。それが3~5巻なんではなかろうか。10巻越えると完全にやりすぎ。それをやるにはストーリーを重厚長大にすればよいのだけれど、そんなものは俺は求めていない。そういうのを読みたいのなら別のを読む。なにより、重厚長大になると主人公の天真爛漫さが確実に損なわれるので、求めているのと違う作品になること請け合いである。だから、この短さで必要十分なのだ。
-
その他雑感
こういう脳みそが足りてない系アクション、最近はトンと見ない。多分読者/視聴者が求めていないのだろう。みんな、そんな日常系が見たいのか? 近未来SFにはそこまで魅力がなくなってしまったのか?
まとめ
- 当時はやっていた美少女モノ
- マッドサイエンティストなど配置も完璧
- 短さがいい。これ以上は違う話になる
あと、死人が出ないのもポイントですね。だって、死人でたらシリアスになっちゃうじゃないの。各話毎のラストにある引きの文章も、読んでた当時は「くだらねー」と思っていたけれど、アレが物語がシリアスに振り切れるのを防いでいて良い塩梅、というのを今更ながらに想う。やっぱりシリアスにいかないように注意していたというのは、作者から伝わるメッセージなのだ。
関連する過去記事はこっち(↓)。女の子のアクションは難易度が高いのだ。
じゃあのノシ
青海老